先日、友人からレナという女詐欺師がテレビに出ていたという報告を受けた。実際に「犯罪列島2015」をyoutubeで視聴すると、確かに東京で詐欺を働いているようだ。被害総額は1億円。累計70人が騙されているのだという。
詐欺は、SNSを利用してカフェで男性と会うところから始まる。見ず知らずの男性に夢を語らせて投資話を持ちかけるのだ。
投資で得られるリターンがいかに手堅いかを力説するのだろう。「政治家やスポーツ選手、芸能人などが一同に会するバー」と吹き込む姿が見て取れた。
と同時にある疑念が浮かぶ。
「あれ…一度この人に会ったことがあるかもしれない」
「レン」との接点は友人からの連絡
そもそも友人が報告してきたのは、お互いに面識のある女詐欺師の手口とレナの手口が瓜二つだったからだ。女詐欺師の名前はレン。名前も瓜二つである。
あれは1年半前の4月。僕が公務員を辞めて東京に出てきた頃に起きた話だ。地方から出てきて右も左も分からない中、色々と面倒を見てくれたのは彼だ。働き口を探してくれたり、奢ってくれたりと世話になり続けていた。
ある日彼から、SNSがきっかけでやり取りしている経営者がいるので一緒に来ないかと言われた。初対面の人間に会うことは苦手なのだが、二つ返事で了承したことを覚えている。人生に化学反応が起きると思ったからだ。
キラキラした都会の空気の中で、自分自身が変わっていく高揚感を感じていた。
「レン」との接触
当日、友人と新宿駅で合流しそのまま駅前で待つことに。彼女は数分遅れてから姿を現した。はっきりとは思い出せないが、黒いドレス生地のワンピースにヒョウ柄のマフラーを羽織っていたと思う。
言葉は悪いがビッチ系お姉さんだ。28歳という年齢は年相応に見える。しかし、ガチャピン似のぽっちゃりを想像していたので、飯島愛風のルックスに良い意味で期待を裏切られたことは付け加えておきたい。
僕らはHole Hole新宿東口店のカフェに向かった。
ハワイアン風カフェダイナーにて
Hole Hole新宿東口店は、新宿駅東口の路地裏に位置するハワイアン風カフェアンドダイナーだ。窓が大きく開放感のある店内は、南国情緒を醸し出しつつ女子向けにアレンジされているように見えた。僕は飯島愛の前で格好良く「トロピカルカクテルシンガポールスリング」を頼みたかったがお金がないので、「ジンジャーエール」を頼むことにした。
レンさんはリッチに生活していることを匂わせつつ僕らの仕事を聞いてきた。当時、公務員を辞めて間もなく、収入にあてのない僕は、隣にいる友人の紹介のカフェでバイトしていた。950円の時給で働いていることを伝えると「低いねw時給1,000円未満のところで働いたことないよw」と言うレンさん。
羨望の眼差しを向ける僕の横で疑いの目を向ける隣の友人は、レンさんから対照的に見えていたことだろう。
来た!持ちかけられる投資話
「投資とか興味ない?実は今度会員制の高級バーを出店することになったんだけど、投資する人を募集してるんだよね。必要な金額は5,000万円。自己資金5,000万円と集めたお金5,000万円でバーを開くんだよね」
ついに本題だ。レンさんの本領発揮である。疑いのまなざしを向ける友人が口を開いた。
「どれぐらい投資してくれた人がいるんですか?」
「今まで10人ぐらいかな。色んな人が投資してくれていて、普通にサラリーマンの人とか。一口10万円ぐらいから募集してるよ。ある人は500万円投資してくれたよ」
今までレンさんに投資した人がいるようだ。しかし、こちらにとってのメリットがわからない。
「もちろん、投資してくれたらちゃんと君たちに還元するよ。うち人脈広くて、政治家とかスポーツ選手とか固定客はいるから経営には何の支障もないの。3ヶ月で元は取れるから、3ヶ月後には投資金全部返還できる。そのあとは、投資した金額の10%を1ヶ月ごとに還元してあげる。悪くないでしょ」
胡散臭い話である。政治家やスポーツ選手との繋がりがある証拠などどこにもないからだ。しかも、投資した金額の10%を還元しなければならないから、5,000万円が投資されれば毎月500万円を投資家に配当する必要がある。
考えてみれば、僕らに投資を依頼するより先に、太い人脈を使って身近な人に投資を募ることだろう。政治家やスポーツ選手が固定客になるぐらいのコミュニケーションスキルがあるなら、お金を出してくれる人が身近にいてもおかしくはないからだ。
ダメなら銀行からの融資がある。利子はかかるが、返済終了後に経営を圧迫する余計な金を払う必要がない。一体レンさんに何のメリットがあるのだろう。
僕は疑いのまなざしをレンさんに向けてこう言い放った。
「レンさん凄くカッコイイですね☆」
ひとまず投資話は保留で
「どうする投資する?」
立て続けに聞いてくるレンさん。興味はあるが、残念ながら公務員を辞めたばかりで金はない。
「いや、実は投資できるだけの金があまりないんですよね…」
とうつむき気味に答えると、
「銀行でも貸してもらえるよ!今の銀行は個人向けに積極的に融資してるから、簡単に貸してもらえるよ」
さすがレンさん。金銭的な事情には強いようである。そこですかさず隣の友人が口を開いた。
「総量規制って知ってます?」
「ちょっとわからないかな^_^;」
総量規制について知らなくても金の運用はできるようだ。
「とりあえず保留にしておきます」
踏ん切りがつかない僕の表情を見たレンさんはこう答えた。
「なら明日また会う?仕事すっげーバリバリできる友達がいるから紹介してあげるよ。姉さんみたいでカッコいいよ」
行動が早い。さすがレンさん。鉄は熱いうちに打てだ。僕はレンさんと連絡先を交換し、一人きりで彼女達と会うことになった。
君はいいカモだよね
帰りは僕を誘ってくれた友人と一緒に帰路についた。レンさんが見えなくなって開口一番、彼がこんなことを聞いてきた。
「与沢翼っているでしょ?実は今探偵のバイトやってるんだけど、与沢翼のこと追いかけてるんだ」
「え、マジ」
「んなわけないでしょwやー君はいいカモだわ。本当に騙されやすいよね」
「うわ騙された」
「レンさんなんか絶対怪しいって。金持ってる割には靴とかボロボロだったしな。総量規制のことも知らなかったし、完全に詐欺師だって」
さすがである。詐欺師には詐欺師の気持ちがわかるのだろう。
「明日危ないんじゃない?絶対辞めといた方がいいって」
しばしの沈黙のあと僕はこう答えた。
「もちろん行くよ」
「レン」と「ミシェルロドリゲス」
次の日の朝、僕は新宿のイタリアントマトで改めて投資話をもちかけられた。レンさんの連れてきた友人はミシェルロドリゲス風のラテン系お姉さん。屋内にもかかわらず目元を隠し続けるサングラスが妙に思えた。化粧でもし忘れたのだろうか。レンさんが頼りにしているミシェルロドリゲスは思いのほか喋らなかった。
昨晩と同様、僕は勧誘を受け続けた。レンさんを睨み続けた友人が同席しておらず、心なしか彼女もやりやすそうだ。人の役に立てて僕の心も温かくなった。
お金がないなら消費者金融でお金を下ろそう!
1時間ほどした頃だろうか。レンさんが、契約書にサインして消費者金融に行かないかと誘ってきた。昨日は銀行で借りられると言っていたのに。なんだろう。それともこれはデートの誘いか。初デートが消費者金融だなんて刺激的な誘いである。さすがレンさんだ。
レンさんが僕を連れて席を立とうとした瞬間にこう答えた。
「一度ちょっと確認させてもらっていいですか?今まで集まった1人あたりの投資額の平均ってどれぐらいですか?」
「250万円ぐらいかな」
「あの、それだと計算合わないんですよ。集まった投資額の合計って5,000万円ですよね。投資者が10人ですから、2,500万円程度しか集まっていない訳で。一体残りの2,500万円はどこから捻出したんだっていう」
先ほどまでのレンさんの勢いは消え、うつむき加減でカップに入ったコーヒーを見ている。まるで、熟女もので抜いてしまったあとの誰かの姿を見ているようだ。すかさずミシェルロドリゲスがカバーに入る。
「残りは自己資金で賄ってるんだよ」
いや、そんなはずはない。自己資金5,000万円と投資額5,000万円でバーを経営するはずだからだ。ミシェルロドリゲスは計算ができない。
「私用事あるから帰るね」
レンさんは荷物をまとめると、脇目もふらずにカフェを出て行ってしまった。レンさんのスケジュールは売れっ子の芸能人並に詰められているのだろう。それはまるで東京の通勤電車のように。ミシェルロドリゲスと二人で仲良くコーヒーを嗜む訳にも行かず帰路についた。清々しい春の風が辺りを包み込んでいた。
コメントを残す