《書評》「『立入禁止』をゆく-都市の足下・頭上に広がる未開地-」

「『立入禁止』をゆく -都市の足下・頭上に広がる未開地」を読みました。イギリスロンドンで極秘に「都市探索」を楽しむ集団「LCC(London Consolidation Crew)」の一員としての、2008年から2012年までの活動内容と思索をまとめた本です。著者は地理学者で、LCC設立前のチームBの時から活動に加わっています。

「立入禁止」をゆく -都市の足下・頭上に広がる未開地
廃墟のホテル、閉鎖された地下鉄のトンネル、下水道や共同溝、超高層ビルのてっぺん、忘れられた遺跡…ロンドン、パリ、ベルリン、デトロイト、シカゴ、ラスベガス、ロサンゼルスの「立入禁止区域」に侵入する、現代的探検記。カラー図版130点収録。

彼らはロンドン市内にある下水道や工事現場、廃墟、超高層タワー、橋、地下鉄の立ち入り禁止区域に潜入し、一般には見ることのできない場所を次々と制覇していきます。潜入の様子・緊張感を伝える文章と共に、裏側の美麗な写真が掲載されており嫌悪感よりもワクワク感を掻き立てられます。

そもそもLCCは反社会的な思想をバックグラウンドに活動する訳ではありません。自らの限界を広げたい・知りたいという「エッジワーク」が基本になっているのです。

「こうした境界を押し広げることに夢中になると、都市探検から潜入に移行するんだ」。そして、いったんその一線を越えたら、戻ることは難しい。新しい境界を克服することに成功するたびに、僕らは比較的罰せられることなく次の一線を越えつづけられたからである。

Convergence, Transmission & Storage

何が待ち受けているかわからない未知に踏み入る行為は、曖昧な自分の限界を押し広げるものです。時に下水道の濁流に流されそうになったり、地下鉄に轢かれそうになったりする危険を冒すことで、自分の境界を知ることができます。潜入のアドレナリンと恐怖心の間で、自分自身を知ることにもなるのです。

得体の知れない未知を手なずける感覚は病みつきになります。思えば僕もヒッチハイクで東京から北海道を横断した3年前、強い達成感を感じることができました。興奮と不安のカオスの中で目標を達成できた時、まるで強くなれたかのような感覚を持てるのかもしれません。

【予算ギリギリ】ヒッチハイク1日目まとめ(赤羽〜宇都宮)

2015.08.03

気候変動の大惨事後や大破局後の空想は大衆文化に広く浸透している。『マッドマックス』、『28日後』、『12モンキーズ』などの映画やテレビ番組から、コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』のような書籍、それにバイオショックやレイジなどのコンピューターゲームまで多岐にわたる。こうしたすべての作品のなかで、未来は殺風景な暗黒卿として描かれていても、その根底には強い高揚感がある。国家、社会生活、および文化的期待から解放されることでもたらされる自由であり、頼るべきものも心配すべきも自分しかいないことである。

一方、自分以外に都市の境界も広がっていきます。

普段目にしている都市の風景は水平的です。予定調和的で安全になるよう都市が設計されてきたため、その裏側をうかがい知る機会はほとんどありません。彼らは都市の裏側に潜入することで、垂直的な視点を発見します。建設現場のクレーンや下水道の奥など、意図的に隠された上下の空間を明るみに出すのです。

ヒッチハイクに話を戻せば、一般車に乗せてもらうことで普段は会えない人と会うことができました。ただの旅行では体験できない、数々のトラブル(新興宗教勧誘、ホテル代をおごってもらったことなど)や人の優しさに遭遇できるのです。

ルールの外には、自分の知らない世界が待っています。

ベンヤミンは廃墟のなかで、歴史的真実が明らかになると考えていた。ロマン主義者は人生の苦悩という人類の自然状態を取り除いて、永遠の完璧さといううわべで世界を覆い隠した、と彼は主張した。ベンヤミンにとって廃墟は、その幻想を引きはがし、むきだしにし、大文字のHで綴られた〔唯一の〕歴史の木目に逆らって読み返すべく準備のできたものだった。

The 2012 Transition

また、彼らの都市潜入は、幼少期を思い出させてくれるものがあります。

探検のための探検をし、経験するために危険を冒し、「結果」などほとんど考えない欲望は、子供のころに僕らの奥深くに流れていたものだ。都市探検家はある意味では、こうした抑制されない遊びの感覚を再発見し、形成しているのだ。夜通し起きてうろつき回り、策略を練って、自然発生的な出会いのなかで重要な会話を交わすこと、これらはいずれも探検家仲間のあいだに非常に強い絆をつくることになった。そこでは、都市で遊び回ることが、仕事や消費の重要性と対照的なものとなる。

両親や先生が規定するルールを秘密裏に破り仲間内で共有する喜びです。僕の幼少期を振り返ってみれば、学校近くの公園に「秘密基地」と呼ばれるものがありました。秘密基地は、柵を乗り越えた斜面に存在しており、一歩足を踏み外せば沼に落ちてしまいます。だから、柵が設けられているのですが、あえて柵外で遊ぶことは妙な高揚感があります。

互いにルールを破り秘密を共有することは、仲間意識を強める働きがあります。社会人になり友人同士の繋がりが希薄になりつつ現状を考えれば、懐かしさすら感じました。

代償は高くついた。どこまでなら切り抜けられるかにいったん気づくと、アドレナリン中毒は日常生活をも完全に消耗させるものになり、グループの人間の多くは、探検仲間ではない友人とますます疎遠になっていることに気づいた。僕は考えうる限り最低の夕食パーティのゲストになり、会話を始めようものなら、「それで昨日、僕らはこの建設現場に忍び込んでさ…」などと言いだす始末だった。それでも、僕は生まれて初めて人生がそうあるべきものになっていると感じていた。毎日がその前の日よりも興奮に満ちていたし、友人グループとこれほど親しくなだたことはなかった。僕らは部族主義になっていたのだ。

もちろん禁じられた区域への潜入は不法行為です。実際、2012年にLCCのメンバー4人が逮捕、著者は2012年8月にヒースロー空港で輸送警察に逮捕され組織は解散の憂き目にあいます。

それでも自ら実践して境界を押し広げる行動主義の姿勢は、読んでて痛快なものがあります。Kindle版のみで単行本も4,536円と値が張りますが、私小説とエスノグラフィーが織り交ぜられる構成でなかなか面白かったです。

興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。

「立入禁止」をゆく -都市の足下・頭上に広がる未開地
廃墟のホテル、閉鎖された地下鉄のトンネル、下水道や共同溝、超高層ビルのてっぺん、忘れられた遺跡…ロンドン、パリ、ベルリン、デトロイト、シカゴ、ラスベガス、ロサンゼルスの「立入禁止区域」に侵入する、現代的探検記。カラー図版130点収録。

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元公務員。「ゆるく生きたい…!」「夢がありそう…!」と希望を持って地方から上京したものの、東京の荒波に晒され地獄感を味わう。過労とストレスで体を壊すぐらいなら冷蔵庫を壊そう。