俺は、俺はクレパスに落ちていた!

人生のどん底がいつですか?と聞かれれば3年前と答える。2、3番目のどん底は今である。想像してみてほしい。あなたは山登りをしようとしている。数年の経験を携えているので山登りには自信がある。目指すは頂上。他の誰かが目指しているから、自分も目指そうとしている。大きな理由はない。

さて、あなたは今までの道のりを少し変更し、見通しの悪いコースを目指すことになった。天候が変わりやすく足場は脆そうだ。しかし、行程を少し変えることで、後々楽ができそうだ。噂によれば、道のりを変えることで緩やかな傾斜の山肌に出ることができるという。また、他の山登りたちから羨望の眼差しで見られるという。問題は不確実でどんな危険が待っているかわからないことだ。とはいえ、山肌から滑落しても大怪我はしない、もしくは滑落自体が小さな範囲で済む、という予測が立てられている。あとは怪我を恐れずに挑戦するだけだ。

数ヶ月前、あなたはルートを変更することを選んだ。不確実だが大きな怪我はしない、そしておそらく長期的には近道になる、という予測を元に。残念ながら予測は失敗だった。登っていたはずの坂は下り坂で、進んだ先には深いクレパスが待ち受けていた。あなたは突然真っ逆さまに暗闇の底に落ちてしまった。そこはもはや地上の光が届かない世界。幸いにもピッケルがあるので、自力で少しずつ登ることは可能である。問題はいつまで登り続けることができるか、ということだ。どれだけ自分が転落したかわからない状況で気力が持つか、もしくは上に戻るまでに食糧が持つか、という問題である。

もっとも、救援を待つ方がマシに思える。あなたは幸運にも地上まで電波の届く無線を持っており、いくつかのチャネルを通して救援を呼ぶことができた。探しには来てくれるだろう。あとは見つけられるかどうかだろう。いずれにせよ、やはり食糧は少ない。ジリ貧の勝負になる。

正直な話、全てリセットすることもできる。あなたはこの世界の魔法使いでもあるからだ。ドラゴンクエストシリーズのリレミトに該当する技を使い、強制的に地上に戻ることもできる。地上に戻れば、おそらく一時的に助かる可能性は高い。しかし、街の住人たちから卑怯者と呼ばれ、2度と山に登れなくなる可能性も高い。いわば最終手段だ。

もしも人生がリセットできれば、と考えることがある。頭に思い浮かぶのは、スーパーファミコンのリセットボタンを人差し指で押す情景だ。押した途端にテレビ画面が真っ暗になり、スタートメニューが表示される。あとはセーブデータを選んで、もう一度やり直すだけだ。もちろん、全く現実的な話ではない。写真や動画に保存しても、当時からやり直すことはできない。目の前に広がる現実は確かに存在するのだ。

あなたは自分の足で立ちたかった。
良い選択をしたつもりだった。
しかし、何かが間違っていた。

この記事をシェアしてみよう!



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

ABOUTこの記事をかいた人

アバター

元公務員。「ゆるく生きたい…!」「夢がありそう…!」と希望を持って地方から上京したものの、東京の荒波に晒され地獄感を味わう。過労とストレスで体を壊すぐらいなら冷蔵庫を壊そう。