【新人公務員向け】ミスをする仕事の重要性

仕事上のミスは怖いものだ。特に、失敗が許されない業務の場合には、ミスに対して敏感になってしまうものだ。公務員の業務は、法令を遵守する面や市民の生活を守る最後の砦として機能していることから、失敗に対して過剰なまでに敏感になってしまう。

だから、公務員はリスクをできるだけ取らないように業務を行うことが多い。自治体・省庁によっては、たとえば、交通違反があった際には上長に報告しなければならないし、通常、業務を行う際にはマニュアル通りに事務を遂行することが重視される。

公務員にとっての失敗とは

失敗が明確であるということは、逆説的には正解が明確であるということだ。正解が無数にあれば利害関係が複雑に絡み合い、ある面では失敗に見えてもある面では成功に見える場合がある。

たとえば、結婚することを考えてみて欲しい。結婚をすれば、これからの伴侶を見つけるという意味では成功である。しかし、結婚したが故に、自身の金銭的自由は損なわれる。将来の家計のために貯金をせざるを得ないからだ。だから、金銭的な自由という意味では失敗である。

この面、公務員の世界での正解は法令であり、究極これに従っていれば業務上問題ない。法令の解釈という問題はあるが、法令に従ったが故のデメリットまで考える職員はあまりいないように思う。法令は絶対的なものであるからだ。法令からはみ出してしまうことは、すなわち失敗なのである。

公務員の世界にはマニュアルがある。これは法令に即したものだ。だから、マニュアルに掲載されていない行動に移ってしまえば、それは失敗である。

マニュアルに載っていない不備

しかし、マニュアルに掲載されていないことも数多くあるのが実務である。業務は流動的であるが故に、想定していない事象がしばしば起こるからである。たとえば、市民から送られて来た書類に不備があった時などがそうである。所定の位置に記入がされてなければならないのに抜けていたり、誤字脱字があったりする。

往々にしてそのような不備が見つかった際の対処法はマニュアルには掲載されていないことが多い。考えられる不備は無数にあり、全てを網羅することは不可能だからだ。だから、そのような不備に直面した際の対処法が問題となる。

法令や規則の確認の欠点

対処法として一つ考えられるのは、法令や規則を確認しておくことだ。なぜなら、不備への対処法が法令や規則という形で既に書かれている可能性があるからだ。

しかし、欠点が二つほどある。一つは、時間がかかることだ。思考を適切に働かせながら法令や規則を追って行かなければならないため、どうしても時間がかかってしまう。特に、何条にも渡って法令や条文を読み込まなければならない時には時間が大幅にかかる。これは、時間が切迫している業務であるほど致命的である。

そしてもう一つは、法令や規則の解釈に困ることがあるということだ。たとえば、「書類は、適正に処理されなければならない」という条文があったとする。ここで気になるのは、「適正」の範囲だ。「適正」が、どれだけの範囲をカバーしているかによって、書類の不備に対する対処法が変わるからだ。これが条文から判断出来ればいいのだが、なかなかそうも行かない場合もある。だから、さらに調査を進めなければならなかったりする訳だが、一つ目で指摘したように時間がかかる。

では、どうすればよいのだろうか。

上司に聞く

これらを解決する為には、上司に聞くことが一つの策だ。なぜなら、上司は正解を知っている可能性が高いからだ。上司は勤続年数が高く専門性に長けるので、正解を知っている可能性が高い。だから、不明な点があれば部下としては積極的に聞きたいところだ。

しかし、積極的に質問することを鬱陶しがる上司もいる。確かに、不明点があった際には自分の力で考えることも必要なのだが、マニュアルに掲載されていないからこちらは聞きたいのだ。それを止められるのはたまったもんじゃない。だから、自分の力で進めようとするのだけど、それはそれでミスに繋がってしまう。

自身で進めてミスが生じてしまえば上司に怒られるし、かといって不明点を聞こうと思っても呆れられる。この状態に入ってしまうと、精神的には絶望的な状態になる。改善を行おうと思っても、叱責というフィードバックが待っているからだ。だから、こちら側としても、必要以上にミスを意識してしまい萎縮してしまう。もはやわからないことがミスなのである。

こんなどうしようもない状況になったら…

このように身も蓋もない状況に陥った際には、思いきり開き直ることが重要だ。残念ながら、ミスをしないことを意識しても業務上わからないことは出てくる。というか、上記の例でいえばわからないことが出た時点でミスなのだ。わからないことが出た時点で叱責されることは決まっているのだから。

だから、あえて大胆かつ適当に業務を行うことを勧める。これには一応根拠があって、気分は認知容易性に影響を与えるらしいのだ。

楽しい時と悲しい時の直感の働き

ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
」からの引用なのだが、

気分が直感の正確性に大きな影響をおよぼすことである。…(中略)不機嫌なときや不幸なとき、私たちは直感のきらめきを失ってしまう。

これは、ドイツの心理学者による実験に関するものだ。この実験では被験者を二つのグループに分け、実験の開始前に数分間、楽しいことを一方のグループに、悲しいことをもう一方のグループに考えてもらう。そしてその後に連想問題を行い、その判断が正確であるかどうかを各問2秒で答えるというものである。これは、「正解を思いつく前に、この問題に正解があると思えるか」と「気分は検査の成績にどう影響を与えるか」を確かめるためである。2秒という時間は、正解を思いつくには短すぎる時間だが、驚くほど正確な結果が出たそうだ。

また、二つのグループでは、その直感の正確性に大きな違いが出たそうだ。正確性を表す指標として、実験者は「直感指数」を計算したのだが、楽しいことを考えたグループは指数は2倍も向上したのだ。反対に、悲しいことを考えたグループは、直感的な操作を全くこなせなくなってしまった。

手詰まりの時は雑に仕事しろ

ここから得られる教訓はこうだ。「萎縮して仕事をすれば、直感が全く働かなくなる」ということだ。僕の経験なのだが、ミスをせず怒られないよう極めて慎重に業務を行おうとした結果、ミスがさらに誘発されたことが新人時代にあった。これは萎縮をしていたことが原因だ。マニュアルを読んでも記憶が定着しなかったり、進行中の業務とマニュアルの中の業務の関係が把握できなかったりしたのだ。これは本当に辛かった。

それを、ある日スタンスを変更したところ、ある程度上手くいく実感が掴めるようになった。それが、大胆かつ適当に業務を進めることだった。ある程度雑に業務を行うことを自身に許容したことで、直感が上手く働くようになった。そしてこのことは、業務に集中する手助けとなった。

トライ&エラーが重要

自身で進めてミスが生じてしまえば上司に怒られ、不明点を聞こうと思っても呆れられる時に、大胆かつ適当に業務を行うことは有効だ。それだけでなく、事務作業一般に使用できる策でもあるように思う。

事務作業は、最終的に手を動かさなければならない。たとえば、個人情報の入力の際にはパソコンを使用したり、書類が適正に処理されたことを示す為に印鑑を押すなどがそうだ。だから、手を動かして覚えていくことが重要なのだ。

これはスポーツで例えるとわかりやすい。あなたがサッカー選手であるとした時に、適切なシュートの方法を本で読んだだけでは意味が無いのだ。実際に体が動くレベルまで落とし込まなければならないのである。

そしてこれはトライ&エラーの成せる技である。失敗を恐れずに大胆に体を動かすことだ。トライした結果として失敗や成功というフィードバックが返ってくるのだから、あとは体が自動的に調整してくれるはずだ。

これを踏まえると、トライできないことは不幸なことだともいえる。フィードバックが返ってこず、体が調整出来ないからだ。先ほども述べたが、事務作業は最終的には体を動かさなければならない。だから、どんどん体を動かすイメージを持って、大胆かつ適当に業務を行ってみよう。仕事が覚えられないのであれば、きっと役に立つはずだ。

おわりに

もし、当時の僕のように手詰まりになっている人がいるのならば、是非とも試してみて欲しいと思う。それはマニュアルに記載されていない事柄が出てきて解決策が見つからない時にもそうだし、そもそも事務一般に対する処理に対する心がまえとしてもあってもいいと思う。トライできなければ仕事を覚えられないからだ。

慎重さは、あとからついてくればいい。仕事に対する余裕が出てきてから考えればいいのだ。それが一番理にかなっているように思う。ではでは。

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元公務員。「ゆるく生きたい…!」「夢がありそう…!」と希望を持って地方から上京したものの、東京の荒波に晒され地獄感を味わう。過労とストレスで体を壊すぐらいなら冷蔵庫を壊そう。